センター長 伊東 清志

1.ビジョン

まず本「脊椎脊髄センター」は、当院に2021年7月に開設されたセンターであることをご報告するとともに、これも相澤先生、田内先生、小林先生、北沢先生および多くの先生方のご尽力のおかげであることに感謝申し上げます。

厚生労働省の2018年患者調査によると、脊椎脊髄障害患者は高齢になるに従って増え、その患者数は2020年度時点で2010年度比180%の増加となっている。誰しもが高齢になっても自立した生活を送り、その生活の質の低下を防ぐことは、個人単位では家族全体の介護負担を軽くし幸せな生活を営むことが可能となり、また日本全体を考えれば経済活動をはじめとする生活基盤を安定させる喫緊の課題である。

このような状況のなかで当センターのビジョンとしては、今後とくに高齢者の生活の質を高める機能外科として、脊椎脊髄疾患の外科治療を重要な臨床課題として取り組んでいく。脊椎脊髄疾患は医療の費用対効果としても今後ますます日本において集中的に力を注ぐべき疾患群であると考え長期的な診療計画を立てている。

当センターでは脊椎脊髄疾患全体を扱い、またその治療のほとんどに手術用顕微鏡を使用しマイクロサージャリーとして低侵襲治療を行っている。手術用顕微鏡を使用する利点としては、「低侵襲でありながら緻密かつ安全で確実」な手技を行うことができる点である。早期社会復帰が可能となる。
その一方で地方都市、長野県で世界水準の治療を受けられる体制作りも不可欠であると考える。都会と地方の医療格差は、単なる医療機関の数のみでなく質にも及ぶと考えるからである。低侵襲でありながら確実、安全に手術を行っていくために、手術用顕微鏡から「手術用内視鏡」を使用した手術体制へのスイッチをこの3年間を目途に行っていく予定である。

また私の得意とする脊髄疾患の中での難病「脊髄腫瘍」「脊髄血管障害」にも力を入れていきたい。前任地で多くの症例を経験しており、2017年からの3年間で、67例を取り扱うことができた。これは日本有数の手術件数である。

2.サービス・業務内容

2021年7月開設。手術準備期間を経て相澤病院では脊椎脊髄センターとして約5ヶ月にわたり常勤の伊東を中心に、脊椎脊髄疾患を保存的、外科的な治療を提供することをコンセプトとして活動してきた。
この5ヶ月の間に28例の手術症例を行った。黎明期のセンターとしては、まずまずの手術数と考えている。そのうち25%にわたる7例が、脊髄腫瘍、脊髄血管障害であったことは非常に意味がある。脊椎脊髄疾患のなかでも高度な技術が必要とされる疾患の治療にあたり、患者を社会復帰させることができた。これらの疾患は、患者の生命に関わるものであり十二分な患者さんへのインフォームド・コンセントのもと、双方の深い信頼の上に成り立つ疾患群である。

まだリハビリテーションスタッフにも脊椎脊髄疾患についての知識をこの5ヶ月間の間に習得していただいた。この経験から得られた知識と経験から育成されたリハビリスタッフを基板として、「チームスパイン(脊椎脊髄疾患治療チーム)」として高齢化社会のなかでの腰痛、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症そして頚椎椎間板ヘルニアの治療継続とともに脊髄腫瘍、脊髄血管障害など高度の治療技術が必要な疾患に対する手術加療、術前後のリハビリテーションへ発展応用し総合的な治療体制のさらなる構築が次の目標となる。このチームで、患者さんが安心して日常生活に復帰ができるまでサポートしていきたい。

対象疾患

頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症、胸椎症、腰痛症、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎分離症、キアリ奇形、脊髄空洞症

3.体制

医師 常勤:1名(信州大学医学部特任准教授、日本脊髄外科学会理事、指導医、認定医)

資格

  1. 日本脊髄外科学会理事
  2. 日本脊髄外科学会 専門医資格取得(専門医番号1578号)
  3. 日本脊髄外科学会 指導医資格取得(指導医番号67号)
  4. 日本脊椎脊髄外科専門医取得 (認定番号001-087)
  5. 日本脳神経外科学会認定専門医取得                .
  6. 頚椎人工椎間板置換術技術認定医
  7. 骨粗鬆症に対するバルーンカイフォプラスティ技術認定医
  8. 椎間板内酵素(ヘルニコア)注入療法技術認定医
  9. 脊髄モニタリング認定医

4.実績・年度報告

実績

外来受診件数
2021年度新規患者数125件(2021.7月~2022.3月)

関連手術件数

2021年度手術症例数 53件 (2021.8月~2022.3月:7ヶ月間)

  • 頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症   15例
  • 腰椎椎間板ヘルニア、腰椎脊柱管狭窄症 11例
  • 脊髄腫瘍、脊髄血管障害(転移性脊椎腫瘍も含む) 9例
  • 先天性奇形 キアリ奇形 2例
  • 外傷 10例
  • その他 6例

5.学術等業績

1. 受賞:日本脊髄外科学会最優秀論文賞「都留賞」受賞
Kiyoshi Ito, Mitsunori Yamada, Tetsuyoshi Horiuchi, Kazuhiro Hongo; Microanatomy of the dura mater at the craniovertebral junction and spinal region for the safe and effective surgical treatment. Journal of Neurosurgery Spine 20(17); 1-7, 2020

2. 著書:伊東清志、その他:特集 脊椎脊髄末梢神経ことはじめ
脊椎変性疾患 頚椎前方除圧固定術―解剖に基づいた安全な手術操作とコツとは?
脳神経外科49(6):1183-1196, 2021

3. 著書:伊東清志、本郷一博: 脊椎脊髄外科の最前線 「脊髄腫瘍―髄膜腫」
Journal of clinical neuroscience (10), 2022

4. 研究費助成:2022年度交通事故医療研究助成
「高齢者の自動車運転事故への脊椎疾患症状「痙性(つっぱり)」の影響の解明」
800,000円